データから新しいインサイトを引き出す: 「なぜ」を繰り返す

例えば、売り上げが落ち込み、コストがかさみ、リソースは活用しきれていない、というよくある状況について考えてみましょう。このような問題自体を発見するのは簡単なことです。難しく、それでいて非常に重要なのは、具体的な行動を起こすために問題の根本原因を解明することです。 ではどのように解明すればよいでしょうか? 「なぜ」という問いかけを繰り返すのです。

注: この記事は以前に ComputerWorld (英語) に掲載されたものです。

好奇心いっぱいの小さな子供に「なぜ」と何度も続けて質問された経験は誰にでもあると思います。ビジネスの世界でも、私たちはそのような子供のようになるべきだと考えたことはありますか? と言うのも、子供であろうが、ジャーナリスト、科学者、経営者、データアナリストであろうが、人は誰でも「何」を追究しているだけでは成功できないからです。

例えば、売り上げが落ち込み、コストがかさみ、リソースは活用しきれていない、というよくある状況について考えてみましょう。このような問題自体を発見するのは簡単なことです。難しく、それでいて非常に重要なのは、具体的な行動を起こすために問題の根本原因を解明することです。

ではどのように解明すればよいでしょうか? 「なぜ」という問いかけを繰り返すのです。

皆さんも恐らく「5 つの Why (なぜなぜ分析)」という手法をご存じだと思います。トヨタ自動車の創業者であり「日本の発明王」として知られる豊田佐吉氏が考案した手法です。

簡単に言うと、発見された問題について「なぜ」と問いかけ、それに対する答えや説明に対してさらに「なぜ」と問いかけ続けるという方法です。この手法の大きな目的は、問題や不具合を解決できるよう、その根本原因を把握することにあります。

多くの企業ではこれを実践できておらず、損失につながっています。大抵の企業はダッシュボードやレポートを利用しています。ダッシュボードやレポートは「何」という質問の答えを見つけるには非常に便利ですが、データが示している以上のことを知りたいときにはどうすればよいのでしょうか? 前述の「5 つの Why (なぜなぜ分析)」手法を使うには、ダッシュボードの限界を超えてデータをさらに掘り下げる必要があります。そうすることにより、予想していなかった質問への答えを見つけることができるのです。

言い換えれば、ダッシュボードは最終目的ではなく、スタート地点にすぎないということです。

例を使って一連の流れを追ってみましょう。例えば、あなたが大規模小売店の経営者で、売上と利益が表示された素晴らしいダッシュボードを使っているとします。下図の棒グラフを見ると、「主要カテゴリーの売上額と利益額は?」という質問の答えが分かります。そして、「家具の利益が目標を大幅に下回っている」という問題が見えてきます。

そこで、何をすべきでしょうか? 「なぜ」かを考えてみるのです。

地域別のフィルターをかけたり、カテゴリーをクリックして、下の地図や折れ線グラフの中で詳細を見てみるのも 1 つの方法でしょう。

しかしながら、このような方法で詳細な情報を知ることができても、先ほど出た「なぜ家具の利益が低いのか?」という質問の答えは分かりません。これこそが重要な点です。つまり、ある質問について調査するために、まずデータのドリルダウンやフィルタリングを行うかもしれませんが、それらは単に、同じ質問を別の角度からみているだけだ、ということです。問題の根本原因を突き止めるには、フィルタリングなどの操作の限界を超えて、ダッシュボードのデータそのものをもっと活用する必要があります。

質問の答えを見つけるために、データを使って新しいグラフを作成してみましょう。例えば、販売している家具の種類別売上および利益額を見てみると、

損失を出しているのはテーブルだということが分かります。ここで再び「なぜ」かと考えてみるのです。

テーブル製造業者別の売上および利益額を調べてみるとします。

そうすると、採算が取れている製造業者は 2 社しかないことが分かります。これほど多くの製造業者が損失を出しているのはなぜなのでしょうか? 再びデータを活用して答えを探してみます。

まず、損失を出しているテーブル製造業者の売上すべてを洗い出して、出荷方法別に調べてみます。何も目立った発見はありません。次に、顧客セグメント別のデータを見てみます。やはり何も出てきません。あきらめずに「なぜ」という理由を探し続けます。

割引販売の状況を見ると、テーブルが大幅な割引率で販売されており、利益幅を食いつぶしてしまっていることが分かります。

まさにここで、割引販売をした場合に損失が出ていることが判明したのです。ついに根本原因が分かりました。繰り返し「なぜ」と問いかけることにより、ダッシュボードが最初に示した問題 (「家具カテゴリーの利益が少ない」) を解決するために取るべきアクション (「割引販売に関する戦略の見直し」) が分かったのです。

この手法が収支に大きな影響を及ぼすことは、前述の不採算テーブル販売の例や、Aer Lingus 社 のご厚意により提供していただいた実際の例でも証明されています。Aer Lingus 社のプロダクション計画担当マネージャーである Jonathan Capper 氏は「Aer Lingus 利用客に最低価格で座席を提供する」という任務をより効果的に果たすために、同じようなデータ分析手法を活用しています。

「興味深いことに、莫大なネガティブコストを抱えていることが判明するまで、会社が好実績をあげていると誰もが信じていました」と Capper 氏は語っています。そこで、多くの「なぜ」という問いかけを繰り返してみたそうです。Capper 氏は、データを視覚的に掘り下げながら、月別平均、日別平均など、次から次へと「なぜ」を追究しました。

「2 日間で、文字通り指示書全体を作り直してスタッフに渡すことができ、後は順調に進みました。その結果は、米ドルで非常に大きな数字の差となって現れています」と Capper 氏は語っています。

データを本当の意味で深く掘り下げ、1 度や 2 度ではなく何度も「なぜ」という問いかけを繰り返して初めてそのような発見を得られるのです。もしかしたら、冒頭で取り上げたあの好奇心旺盛な子供も「なぜ」という問いかけを繰り返していけば、データ分析のヒーローになれるかもしれません。