三井化学、経営から現場までを100個のダッシュボードでつなぎ、全社データ活用を推進。物流の最適化により、3年間で約10億円規模のコスト削減を見込む
全社共通のデータ基盤上で100個のダッシュボードが稼働。経営層から現場まで、共通の数字に基づく議論を推進
在庫・輸送の最適化により、3年間で約10億円規模の物流コスト削減を見込む
Tableau アンバサダーを育成。社長への成果発表や経営層の参加を通じ、データ活用を全社に広げる
三井化学株式会社(以下、三井化学)は、長期経営計画「VISION 2030」に掲げるDXを通じた企業変革の一環として、基幹システムのSAP S/4HANAを中心に、シナリオプランニング・分析プラットフォームの「Anaplan」などとTableauをつなぐ全社データ活用基盤を整備しました。分散・属人化していたデータを一元管理し、100個のダッシュボードで財務・非財務KPIや物流データを可視化しました。これにより経営層から現場までが共通の数字をもとに議論できる環境を整えています。
さらに、アンバサダーの育成を通じて、データドリブン経営への変革を進めています。物流領域では、在庫・輸送データを活用した最適化により、3年間で約10億円規模のコスト削減を見込んでいます。
三井化学について
三井化学は、ライフ&ヘルスケア・ソリューション、モビリティソリューション、ICTソリューション、ベーシック&グリーン・マテリアルズを中心に、社会・産業を支える幅広い事業をグローバルに展開する化学メーカーです。長期経営計画「VISION 2030」では、「変化をリードし、サステナブルな未来に貢献するグローバル・ソリューション・パートナー」をありたい姿に掲げています。素材を提供するだけでなく、社会課題を起点に顧客・パートナーと価値を共創するソリューション型ビジネスへの転換を進め、事業ポートフォリオの変革、サーキュラーエコノミーへの対応、DXを通じた全社変革を推進しています。多様な事業・地域・サプライチェーンを横断しながら、収益性と持続可能性を両立させるため、データに基づく迅速な意思決定と現場までのデータ活用が、経営基盤として一層重要になっています。
三井化学の挑戦
三井化学が変革を急ぐ背景には、中国の生産能力拡大や国内の人口減少に伴う内需縮小など、化学業界を取り巻く環境の変化があります。
常務執行役員 CDO デジタルトランスフォーメーション推進本部長の三瓶 雅夫氏は、長期経営計画「VISION 2030」で掲げる「変化をリードし、サステナブルな未来に貢献するグローバル・ソリューション・パートナー」の実現に向け、DXを通じた全社変革を推進しています。「素材を提供するだけでなく、社会課題を起点に顧客やパートナーと価値を共創するソリューション型ビジネスへと転換するためには、課題が生じてから対応するリアクティブな仕事の進め方を、自ら課題を見つけて動くプロアクティブな働き方へと変えていく必要がある」と三瓶氏は語ります。
さらに、収益性と持続可能性を両立させるため、ROICを一部の管理部門だけが扱う財務指標にとどめず、現場の一人ひとりが自らの仕事とROICのつながりを理解し「自分ごと」として捉える――すなわち、“数字を共通語にする”企業を目指したいと力を込めます。
多様な事業や地域、サプライチェーンを横断したデータ活用は、一部門の効率化施策ではなく、「VISION 2030」の実現に向けた全社変革を支える重要な経営基盤として位置づけられています。
『VISION 2030』で掲げる『グローバル・ソリューション・パートナー』を目指し、素材提供型から、社会課題を起点に価値を共創するソリューション型ビジネスへと転換します。その実現には、リアクティブからプロアクティブへの働き方の変革が不可欠です。現場の一人ひとりが、自分の仕事とROICのつながりを理解し、“自分ごと化”する。『数字を共通語にする』企業を目指します。
Tableau導入以前、三井化学ではデータが部門やシステムごとに分散し、管理も属人化していました。必要なデータが別部署のシステムにあることも多く、共通の指標で比較したり、判断の基準となるデータを定めたりするのが難しい状況だったといいます。
分析業務もExcelによる手作業が中心でした。複数のシステムから抽出したデータを「バケツリレー」のように加工・結合してレポートを作成。担当者やツールによって作業時間や成果物の形式が異なり、分析前の準備に多くの時間を要していました。必要なときに十分なデータが揃わないことも、意思決定のスピードと精度を妨げていました。
デジタルトランスフォーメーション推進本部 業務改革推進室 BI/MDMグループ グループリーダーの今藤由美子氏は、プロジェクトの原点をこう振り返ります。
「まずは、部署ごとに異なるシステムに分散していたデータを一元化し、全社員が信頼できるデータを共通の基盤として議論できる環境を整える。意思決定に必要なデータを揃えること――すべては、そこから始まりました。」
三井化学では、2022年にデジタルトランスフォーメーション推進本部 業務改革推進室が発足しました。同室は、SAPの基幹システム刷新やITデータ基盤の整備、データの「見える化」を支える基盤設計を進めてきました。
推進体制にはIT部門出身者だけでなく、販売や経理、生産などの業務に精通した各本部、事業部の人材も、ビジネスプロセスオーナー(BPO)として参画しています。
多い時には約40名で全社横断のプロジェクトを進め、現場や事業への理解を生かして部門間の連携を支えてきました。
こうした体制のもと、業務改革推進室は「VISION 2030」におけるDXを通じた企業変革の一環として、データの統合・可視化と意思決定の高度化を支えるBI基盤の導入を検討。処理性能や直感的な操作性、現場でセルフサービスBIとして使える点、他社での導入実績を評価し、Tableauを採用しています。
まずは、部署ごとに異なるシステムに分散していたデータを一元化し、全社員が信頼できるデータを共通の基盤として議論できる環境を整える。意思決定に必要なデータを揃えること――すべては、そこから始まりました。
Tableauが三井化学をどのようにサポートしているか
基幹データを一元化し、100個のダッシュボードで財務・非財務データの可視化、経営分析の高度化
この基盤上では、100個のダッシュボードが稼働しています。売上・在庫・受注・生産・出荷などのデータを統合し、在庫回転率やリードタイムなど、部門をまたぐ分析に活用しています。
財務・非財務データを組み合わせた経営ダッシュボードでは、ROICやGHG排出量削減率、PCF(製品カーボンフットプリント)などを製品別に可視化。三井化学独自の認定製品指標であるBlue Value®・Rose Value®売上収益も月次で更新し、予算に対する進捗を継続的に把握できるようにしました。外部の市況データや物流データも取り込み、経営層が全社の状況をまとめて確認できます。
経営ダッシュボードを発展させた「製品成長率モニタリング」の展開も推進しています。このダッシュボードでは、製品別・地域別に、市場規模や市場成長率と、自社の売上や売上成長率を並べて表示します。市場成長率と自社の売上成長率の差を「市場ギャップ」として示すことで、成長市場を十分に取り込めていない領域の把握を図ります。また、ROICやコア営業利益もあわせて表示し、成長性と収益性の両面から製品ポートフォリオを評価できます。

図1:売上高・コア営業利益・ROIC・市場成長率を一元表示した製品成長率モニタリング(画面および数値はサンプル)
物流の可視化により約10億円規模のコスト削減を見込む
三井化学の物流領域では、全社導入に先立ってTableauを導入し、データの可視化を進めてきました。同社は製品ごとにサプライチェーンが異なり、輸送距離や物流ネットワークもさまざまです。在庫・輸送データは拠点ごとに管理されていたため、倉庫の利用状況を全体で把握し、最適化することが課題でした。
そこで、拠点単位で管理されていた在庫・輸送データを統合し、Tableauで地図上に可視化。その結果、近接する拠点で割高な倉庫を利用しているケースや、在庫過多が発生している地域が一目で分かるようになりました。これまで個別最適では見えなかった物流全体の非効率が可視化され、「隣の倉庫へ集約したほうが効率的ではないか」といった具体的な改善策につながるようになったといいます。
業務改革推進室 主席部員の角田吉紀氏は、地図に落とし込むことで初めて見えてくる改善点があると語ります。
「同じ地域でも拠点ごとに異なる倉庫を利用し、近接しているにもかかわらず、よりコストの高い倉庫を使っているケースもありました。地図上で可視化することで、こうした非効率が一目で把握できるようになり、『こちらの倉庫へ集約したほうが効率的ではないか』という具体的な判断につながりました。」
これにより、在庫配置の見直しや輸送ルートの再設計が可能となり、在庫と物流コストの削減を進めています。物流コストには継続的な上昇圧力があるなかで、データの可視化によって、その上昇幅を抑制しています。こうした改善を積み上げた結果、3年間で約10億円規模のコスト削減効果を見込んでいます。
同じ地域でも拠点ごとに異なる倉庫を利用し、近接しているにもかかわらず、よりコストの高い倉庫を使っているケースもありました。地図上で可視化することで、こうした非効率が一目で把握できるようになり、『こちらの倉庫へ集約したほうが効率的ではないか』という具体的な判断につながりました。
トップ・ミドル・現場の三層で進めた全社浸透と「MCI Tableau アンバサダープログラム」
三井化学は、Tableauの展開を単なるツール導入ではなく、全社のデータ活用文化を変える取り組みと位置づけています。経営層への働きかけ、部門責任者を巻き込んだ情報発信、現場ユーザーの育成を組み合わせ、全社への浸透を進めてきました。
経営層に対しては、全役員に「どのようなデータを見たいか」をヒアリングし、それぞれの要望をもとにダッシュボードを試作。反応の良かったものをBIとして実装することで、経営の意思決定にデータを活用する機会を広げる取り組みを行っています。
また、現場の人材育成の中核となったのが「MCI Tableau アンバサダープログラム」です。参加するのは、自ら手を挙げた有志の社員。募集時から、単にTableauのスキルを身につけるだけでなく、学んだことを社内に広め、データ活用文化そのものを変えていく役割を担うことを伝えています。
プログラムは、オリエンテーションを含む全10回。対面とオンラインを組み合わせながら演習・復習教材を用意し、実践的なスキルの習得を支援しました。
集大成となる最終課題では、参加者が「自分の事業で解決したい課題」をテーマにダッシュボードを制作します。社長をはじめとするマネジメントがすべての作品を事前にレビューし、上位7名が本選に進出。本選では、実際にダッシュボードを操作しながら、データストーリーテリングを披露しました。
修了者にはアンバサダーの任命書を、上位入賞者には社長より表彰状を授与。スキルを習得して終わるのではなく、学んだ社員自身がデータ活用の担い手となり、その輪を社内に広げていく仕組みをつくっています。

図2:MCI Tableau アンバサダープログラム成果発表会の役員フィードバックの様子

図3:MCI Tableau アンバサダープログラム成果発表会の表彰式と認定式
「MCI Tableau アンバサダープログラム」の企画をリードする角田氏は、アンバサダーに期待する役割について、次のように語ります。
「アンバサダーには、スキルを身につけるだけでなく、プログラムで生み出した成果を社内に広め、デジタルで三井化学の文化を変えるところまで見据えてほしいと伝えました。作って終わりにせず、どれだけの人が見て活用しているかを数字で把握し、データ活用をさらに進めることを大切にしています。」
アンバサダーには、スキルを身につけるだけでなく、プログラムで生み出した成果を社内に広め、デジタルで三井化学の文化を変えるところまで見据えてほしいと伝えました。作って終わりにせず、どれだけの人が見て活用しているかを数字で把握し、データ活用をさらに進めることを大切にしています。
さらに、人材育成と並行して、Tableauの社内での認知を広げるために活用したのが、自社制作のアニメーション動画「タブローウーマン」です。オリジナルキャラクターとAIによる音声を使い、Tableauで業務がどう変わるかをシリーズで紹介しています。
動画の冒頭には社長からのメッセージを盛り込み、物流領域で成果創出を担った物流部長も登場します。多くの社員が視聴し、個別の問い合わせやトレーニングへの参加につながりました。

図4:社内制作アニメーション動画「タブローウーマン」の一場面
他製品にはないTableauの価値
AIで発想を広げ、Tableauで「共通の見方」にする。意思決定を支える表現力と操作性
三井化学がTableauに感じている価値は、業務部門が思い描いた分析を高い自由度で形にでき、さらに、作ったダッシュボードを起点にその場でインサイトを得ることにあります。
たとえば、売上変動や在庫課題の要因を探るだけでなく、価格や固定費などの条件をスライダーで変え、製品ごとの収益への影響をシミュレーションすることもできます。経営層は全社の状況を俯瞰し、現場担当者は自分たちの課題を深掘りする。決められたレポートを確認するだけでなく、共通のダッシュボードを起点に前提条件を変えながら議論できる点も、Tableauの良さです。
生成AIの活用が広がるなか、三井化学ではAIとTableauの特性を生かして使い分けています。AIは、問いに応じて多様なアイデアを生み出し、分析の可能性を広げる。一方、企業の意思決定では、「どの指標を、どの定義で、どの切り口から見るのか」を組織で揃え、継続的に共有することも重要です。そこでTableauは、AIで広げたアイデアを、組織で繰り返し使える「共通の見方」として形にする役割を担います。
たとえば、まず生成AIで「こんな画面が欲しい」という完成イメージを描き、業務部門と分析要件をすり合わせます。そのうえで、見るべき指標や分析軸、画面構成をTableauで実装。AIで発想を広げ、Tableauで共通のダッシュボードとして形にすることで、経営層から現場までが同じデータを起点に議論し、意思決定できる環境をつくっています。
角田氏は、Tableauの表現力についてこう語ります。
「使いこなすほど、アイデアを具現化しやすいと感じます。こういう画面が欲しいというゴールをAIで先に決めて、そこから逆算してTableauで組み立てる。あらかたのことは実現できますし、調べるほど『これもできるのか』という発見があります。その表現力の高さがやはり便利です。」
使いこなすほど、アイデアを具現化しやすいと感じます。こういう画面が欲しいというゴールをAIで先に決めて、そこから逆算してTableauで組み立てる。あらかたのことは実現できますし、調べるほど『これもできるのか』という発見があります。その表現力の高さがやはり便利です。
経営から現場までが信頼できるデータに基づいて意思決定する組織へ
三井化学が目指すのは、経営から現場までが信頼できるデータと共通の指標をもとに、一つの目標に向けて議論し、意思決定できる組織です。その実現に向け、データ活用をモニタリング中心から要因分析やシミュレーションへと広げるとともに、KPI定義の標準化、Excelを使った業務のTableauへの移行、データ活用を担う人材の育成を進めます。
経営ダッシュボードについても、外部データの拡充や指標の高度化によって市場ギャップ分析などを充実させ、事業ポートフォリオの判断を支える基盤へと進化させていく考えです。さらに、AIを活用した分析の高度化の検討や関係会社への展開も始まっています。
その先に見据えるのは、個人が自由にデータを分析する世界です。ただし今藤氏は、その前提として、まず組織全体で目標と判断の根拠を共有することが重要だと語ります。
「経営から現場までが同じ画面を見て、一つのゴールを目指すことが重要だと考えています。会話型分析で個人が分析する世界もありますが、それは一元化を実現したその先。まずは全社員が同じところを見て目指す、という段階を通ることが本質だと思っています。そのうえで、今後はAIを活用した分析の高度化と関係会社への展開を進め、データドリブンな意思決定文化を定着させていきたい。」
信頼できるデータを起点に、経営と現場が同じ方向を見て議論し、判断する。その土台を築いたうえで、AIによる分析の高度化やグループへの展開へと歩みを進める。三井化学は、「データがカルチャーを変える」という構想の実現を目指しています。
経営から現場までが同じ画面を見て、一つのゴールを目指すことが重要だと考えています。会話型分析で個人が分析する世界もありますが、それは一元化を実現したその先。まずは全社員が同じところを見て目指す、という段階を通ることが本質だと思っています。そのうえで、今後は更なるAIを活用した分析の高度化、関係会社への展開を進め、データドリブンな意思決定文化を定着させていきたい。
※ 本事例は2026年10月時点の情報です
