三菱マテリアル、製造現場から研究開発までデータ分析を自ら推進する“自走型”体制を構築
高機能カンパニー 三田工場:データ可視化効率50倍・作業時間30%削減
金属カンパニー 直島製錬所:400件の操業情報を集約、従来システム依存から脱却
過去2年間の数十プロジェクトで累計約6,000万円以上の効果を試算、コスト削減と業務改善を実現
三菱マテリアルは、製造現場から研究開発、さらには経理・財務などのコーポレート部門にまでTableauを展開。社員が自らデータ分析を推進する“自走型”の体制を構築し、ERPを活用した経営管理にも貢献。全社のデータドリブン文化を根付かせ、ものづくりDXの基盤を支えています。
三菱マテリアルについて
三菱マテリアルは、非鉄金属をはじめとする素材事業を核に、銅製錬・加工、電子材料・超硬工具製造、再生可能エネルギー、リサイクルなど多彩な事業を展開する総合素材メーカーです。「人と社会と地球のために」を理念に掲げ、カーボンニュートラル実現や資源循環に向けた取り組みを強化しています。近年は、半導体関連の高機能素材やxEV向け製品の開発、E-Scrap取引システムの拡充などを進め、持続可能な社会の実現に貢献しています。
三菱マテリアルの挑戦
三菱マテリアルは、誰もがシステム部門に依存せずにデータを活用できる環境の実現に取り組んでいます。
同社は2020年に「MMDX(Mitsubishi Materials Digital Transformation)」を立ち上げ、データとデジタルの力で付加価値の向上、オペレーション競争力の強化、経営スピードの向上という三本柱を掲げました。初期の取り組みでは顧客接点のデジタル化に重点を置いていましたが、その後は製造や研究開発といった現場にまで範囲を広げ、2022年下期からの「MMDX 2.0」では事業系DX・ものづくりDX・研究開発DX(R&DX)の三本柱、それらを支える全社共通DX・ERPの計5領域で再構成。製造業としての強みを生かしながら、全社的に「自分ごと」として取り組む体制へと進化させました。
端山氏は「製造業としての本丸であるものづくりや研究開発の領域にまでDXを広げることが不可欠だった」と語ります。トップダウンに加え、現場主体のボトムアップの動きを重視することで、全社的にデータドリブンな文化を根付かせようとしてきました。その文化を下支えし、現場の自走を可能にしたのがTableauです。
データを現場の人が自分で触れることに大きな意味があります。システム部門に依頼しなければ見られない仕組みでは活用は広がりません。Tableauは“現場が自走できるBI”として、社員が自らデータを活用できる環境を実現しています。
Tableau が三菱マテリアルをどのようにサポートしているか
製造現場から本社まで業務改善と効率化を加速
三菱マテリアルにおけるTableauの活用は、単なる業務効率化にとどまらず、製造現場から本社の経営管理まで、全社規模で大きな成果をもたらしています。
片倉氏はこう語ります。
「Tableauの積極的な利用が進んでいる高機能カンパニーの三田工場では、従来の手作業に比べてデータ可視化の効率が約50倍に向上し、グループごとの作業時間も最大30%削減されました。金属カンパニーの直島製錬所でも、400件を超える銅製錬の操業情報画面をTableauへと刷新し、従来システムへの依存から脱却。解析が容易になったことで、操業データを日々の改善へ直結できる仕組みが整いました。」
さらに本社では、ERPデータを活用したPL予実対比表を公開。わずか1年半で延べ90,000回もの閲覧を記録し、経営層から現場まで誰もが即座に経営数値を確認・議論できるようになりました。こうした取り組みは、Tableauが「データをためる・見せる・使う」というサイクルを加速させ、事業から製造現場、あらゆる領域まで、全社での“データ活用経営”を支える土台となっています。
また、過去2年間にわたり推進した数十の可視化~業務変革テーマを通じ、累計約6,300万円の効果を算出。可視化によるコスト削減と業務改善を同時に実現し、データ活用基盤の定着を加速させています。これらの成果は、Tableauの活用が業務効率化に確かな効果をもたらしていることを示しています。

金属カンパニー直島製錬所における銅製錬操業モニタリング画面

高機能カンパニー三田工場における生産枚数と良品率トレンドの可視化ビュー
データガバナンスと柔軟性の両立
三菱マテリアルは、全社規模でのデータ活用を進めるにあたり、ガバナンスを維持しながら柔軟性を損なわない運用を重視してきました。
従来の仕組みでは、管理権限をすべてシステム部門が一元的に持つため、現場での要望に対する対応が遅れたり、調整が複雑化したりする課題がありました。現場が自らの判断でデータを活用できるようにするためには、管理体制そのものの工夫が必要だったのです。
そこで同社は、プロジェクトごとにリーダーを任命し、その範囲で権限を持たせる仕組みを採用しました。現在では約150名がリーダーとして活動しており、プロジェクト単位で細かくパーミッションを設定できる点も特徴です。これにより、数百人から数万人規模に展開してもガバナンスを損なわずに柔軟な運用が可能となっています。現場に近い判断でスピーディーにデータを扱える環境が整い、同時にシステム部門は全体のセキュリティや方針を監督する立場として、ガバナンスを維持できるようになりました。
この取り組みによって、「システム部門がすべてを抱え込む」から「現場とシステム部門が役割を分担する」という運営モデルが確立。現場主体のデータ活用と全社的な統制の両立を実現し、大規模組織ならではの柔軟で安定したデータ活用体制を築いています。

プロジェクトごとの権限を一目で把握できるTableau Server権限可視化ビュー
150名のリーダーを任命しプロジェクト単位で権限を委ねることで、現場のスピード感を損なわずに、全社としてのガバナンスも維持できています。
他社にはないTableauの価値
Tableauの強みは「細かい粒度での分析対応力」と「学習コストの低さ」
三菱マテリアルは、素材メーカーとして製造から研究開発、本社業務まで幅広い領域を抱え、現場の社員がきめ細やかなデータを多角的に確認しながら改善を進める文化があります。
片倉氏は、Tableauを使う価値をこう語ります。
「日本の製造現場業務には、“細かい粒度で多角的にデータを見る文化”があります。世界的に見ても、これほど現場レベルで細かいメッシュでデータを扱う国は珍しいのではないかと思います。Tableauはもともとスタンフォード大学の研究プロジェクトから生まれたソリューションですが、その思想が日本の製造業の文化と違和感なくフィットしました。だからこそ、三菱マテリアルにおいても導入がスムーズに進んだのだと感じています。」
さらに、山川氏は製品選定の当時を振り返り、こう語ります。
「製品選定時には10名の社員に実際に触ってもらったのですが、9名、あるいは全員がTableauの方が使いやすいと答えました。Tableauでは思った通りにマウス操作を進めていけば期待したグラフが得られるのに対し、他社ツールはルールや言語を理解しないと対応できず、試行錯誤の自由度が圧倒的に違ったのです。」
その違いを象徴する一例が「会計年度の設定」です。日本では4月始まりの会計年度が一般的ですが、他社ツールでは標準機能として備わっておらず、計算式やデータモデルを組む必要があります。対してTableauでは、ユーザーがマウス操作で開始月を設定するだけで対応可能です。日常的に多くの社員が求める操作だからこそ、この差は現場に大きな安心感を与えました。
さらに、1万人以上の社員が利用する大規模組織において重要なのは、ソフトウェアのライセンス費用だけではありません。社員一人ひとりが使いこなせるようになるまでの学習コストが、組織全体では非常に大きな負担になります。他社ツールはライセンス費用自体は安価に見えますが、学習コストを含めて試算すると、総合的にはTableauの方がはるかにメリットが大きいと判断しました。
日本の製造現場業務には、“細かい粒度で多角的にデータを見る文化”があります。世界的に見ても、これほど現場レベルで細かいメッシュでデータを扱う国は珍しいのではないかと思います。Tableauはもともとスタンフォード大学の研究プロジェクトから生まれたソリューションですが、その思想が当社の“ものづくり”の文化と違和感なくフィットしたと感じます。
見える化の先に見据えるAIの活用
三菱マテリアルが描く未来は、「データの可視化にとどまらず、AIを活用して次の一手を導き出せる環境」です。これまで同社は MMDX の取り組みを通じて、製造現場から経営管理まで幅広い領域に Tableau を展開し、全社規模でデータドリブンの意思決定を根付かせてきました。今後はその延長線上に、「AI活用」への進化 を位置づけています。
木原氏はこう語ります。
「見える化の先にはAIの活用があります。働き方そのものを変革する必要性や、人とAIの関わり方をどう築いていくかが、これからの大きなテーマになると考えています。生成AI機能は今後のデータ活用に不可欠であり、従来はIT部門に依存していた部分も、AIが補完することで社員が自ら手を動かさなくても示唆を得られるようになるでしょう。私たちの環境でも、こうした機能を積極的に取り入れていきたいと思います。」
同社は、これまでの「データドリブン」を基盤に、AIを取り入れた次世代のデータ活用へと歩みを進めています。全社的な意思決定のスピードと精度を高めることで、未来に向けた持続的な成長を実現しようとしています。
生成AI機能は今後のデータ活用に不可欠です。従来はIT部門に依存していた部分も、AIが補完することで社員が自ら手を動かさなくても示唆を得られるようになるでしょう。私たちの環境でも、こうした機能を積極的に取り入れていきたいと考えています。
