岡山県備北保健所

医療ビッグデータ分析により地域の実態に即した地域保健医療計画草稿を約4か月で作成|岡山県備北保健所


データにもとづく保健医療計画草稿をわずか 4 か月で策定

導入の背景

地域医療の課題抽出・解決に向けビッグデータ分析に挑戦

岡山県備北保健所は、県内有数の中山間地域で住民の高齢化率の高い高梁市と新見市を管轄し、課題である貧弱な医療提供体制の改善を図るべく、地域の保健医療施策などを推進しています。その中で備北保健所は 2023年、過去に例のない、国がかりの重要な施策に取り組むこととなりました。厚生労働省の「地域医療提供体制データ分析チーム構築支援事業」の対象 6 都道府県の 1 つに岡山県が選定され、備北保健所は県内 5か所の保健所のリーダー役を任されたのです。

この事業は、地域課題の現状把握や地域の医療需要の推移などに関するビッグデータの分析を行い、その結果にもとづいて地域医療構想と地域保健医療計画を策定することを目的としています。そして、そこで得られたデータ分析のノウハウと成果は、以降、全国の自治体で行われる同様の施策の一つの見本として活用されると思います。備北保健所は、国の保健医療施策の今後に影響を与える事業の一翼を担うことができたように思います。

そもそも保健医療に関するビッグデータの歴史は浅く、たとえば「NDB オープンデータ」(診療報酬明細書や定期健康診断・特定保健指導などの情報を蓄積したデータベース)が厚生労働省によって公開されるようになったのは 2016 年から。それらを 5 年に 1 回行われる地域医療構想・地域保健医療計画の策定に活用するのは今回が初めてです。当然、各保健所の所員や県職員の多くは、データ分析のスキルや経験を有していません。

そうした状況の中、推進役である備北保健所のデータ分析チームを率いたのが、所長の宮原勅治氏です。宮原氏は、医師として長年医療現場に立つかたわら、医療の IT 化やプロジェクトマネジメントにも深く携わり、川崎医科大学などで情報処理の講座を担当した経験を持つ、医療データ活用のスペシャリストです。

2022 年に備北保健所の所長となり、保健医療における情報処理や IT 人材育成のノウハウを提供してきた宮原氏は、今回与えられたミッションを達成するためのツールとして Tableau を選定しました。前職で学生に対して Tableau の操作演習を行った経験を踏まえ、データ活用の初学者に短期間でスキルを習得させるのに最適であると判断したからです。

Tableau の導入・運用環境について

データ活用の実践的研修で約 40 名の人材を短期間で育成

宮原氏は 2023 年 2 月に Tableau を導入し、まずは地域医療の状況の可視化に必要なTableau の操作方法に特化した、具体的でわかりやすいテキストを作成しました。その上で 2023 年 7 月から、Tableau に初めて触れる各保健所所員・県職員を対象として、Tableau を用いた研修を開始。週 1 回 1 時間、計 20回にわたるオンラインの研修プログラムにおいて、受講者全員にダウンロードさせた Tableau Public を利用して操作演習を実施しました。宮原氏はこう振り返ります。

「全員に Tableau のアカウントを付与する予算はなかったので、Tableau Public を活用しました。プログラムの前半 10 回は基礎編で、主に Tableau の操作方法を教えました。Tableau ならデータをドラッグ&ドロップするだけでグラフを描出できるので、初学者でも特定の疾患の患者数の推移などをすぐに可視化できるようになります。自分の業務に関連するデータが目に見える形になると、やはりデータ活用の楽しさを実感でき、使い方が自然に身についていきます」(宮原氏)

ただ、それだけではまだ本当の意味でデータ分析のできる人材にはならない、と宮原氏はいいます。データ分析においては、実は BI 製品の使い方そのものより、課題を見つけて真の問題点を抽出し、その解決に必要なデータにどうアクセスすればいいか、という上流工程の思考やノウハウを獲得するほうが難しいからです。

「そこで研修の後半 10 回は実践編として、自分で問題点を見つけ、それに対してどんなデータをどこから取ってくればいいか、それをどう加工してグラフ化すればいいか、という一連のプロセスを学べるプログラムを組みました。それを通じて、最初は皆が “ビッグデータの洪水 ”に溺れたものの、だんだんコツをつかんでいきました」(宮原氏)

その結果、研修プログラムの開始から約半年後の 2023 年 12 月までに、40 名の受講者の多くがデータ活用の一定のスキルを習得。うち数名は実践レベルに達し、医療情報学会でデータ分析の結果を発表するまでになったのです。

Tableau 選定の理由について

直感的な操作ですばやくスキルを 習得できるのが最大の魅力

宮原氏は前職で、複数の BI 製品を使って学生にデータ分析について教えていたといいます。その中から、今回のミッションに最適なツールとして Tableau を選んだのは、操作方法がわかりやすく直感的に使うことができ、すばやくスキルを習得できるから、という理由でした。

「いろいろな BI 製品を使ってきましたが、Tableau がもっとも手っ取り早く人材を育成できました。たとえば川崎医科大学の学生は、Tableau の基本的な操作方法を最初の 30 分ほどで覚え、その数時間後には Excel のデータを可視化してレポートを書けるぐらいになりました。そして最終的には、フランスで開かれた医療情報国際学会に出席し、データ分析の成果を発表するまでになってしまいました。そのように、とにかく早く習得できるのが Tableauの最大の魅力であり、今回の目的にぴったりだと考えました」(宮原氏)

Tableau の導入効果について

データにもとづく保健医療計画草稿をわずか 4 か月で策定

岡山県では、備北保健所をはじめとする5か所の保健所と県庁の担当部署、協力する2つの大学に Tableau Desktop を搭載した PC を計 14 台配備。また、研修を受けた全所員・職員が Tableau Public を併用し、分析結果をアップロードして共有できる環境を整えました。

 

dashboard

 

使用するデータは、先述の「NDB オープンデータ」のほか、各病院の病床の数や利用状況などをまとめた「病床機能報告オープンデータ」、急性期病院における診療内容を蓄積した「DPC オープンデータ」など。データ活用のスキルを身につけた所員・職員がそれらのデータを用いて、それぞれの管轄地域の医療課題についての分析項目を抽出し、可視化・分析に取り組み始めました。

たとえば、岡山県の5つの医療圏ごとに、診療の部位・種類別の医療の需要・供給の状況を示すデータを Tableau で分析したとします。すると、ある手術を必要とする患者が、医療提供体制の整っていない医療圏から近隣の医療圏へどのぐらい流出しているか、医療圏によって死亡率にどのぐらい差があるか、といった実態がはっきりと浮かび上がってくるのです。

「岡山県には、全国トップクラスの心臓手術のできる大病院がいくつもあります。それだけを見れば、『岡山県は心臓の疾患に関しては安心だ』と感じますし、実際にこれまではそう思われてきました。ところがデータを詳細に分析すると、たとえば備北保健所のある高梁・新見地域は、急性心筋梗塞の死亡率が全国平均の 2 倍以上高い。つまり、圏内の医療提供体制が十分でなく、治療のできる病院への救急搬送が間に合わないケースが多々あると推定できるわけです。では、そうしたケースを減らすには、どんな医療提供体制にする必要があるのか。そのように、Tableau でビッグデータを分析することによって、データに裏打ちされ、より実態に即した地域医療構想・地域保健医療計画の策定が可能になりました」

実際、データ分析のスキルを身につけた備北保健所の所員は、自ら Tableau を使ってビッグデータをスピーディに可視化・分析し、管轄地域の保健医療計画の草稿約 80 ページを約4か月という短期間で完成させることができました。

「Tableau 導入の目的だった保健医療計画の草稿をしっかり出せたことは なによりの成果です。5 年前の前回まで、経験と限られた統計値に頼らざるを得なかった地域医療構想や地域医療計画の策定を、これほど短い間に具体的なエビデンスにもとづいて行うことは、Tableau なしでは不可能でした。本当に大活躍してくれたと Tableau に感謝しています」(宮原氏)

保健所所員・県職員の多くは、今まで不可能だったデータ可視化・分析ができるようになったことに大きな喜びを感じていると思います。研修後のアンケートでは、各々データ分析における自分の弱点を認識し、今後なにを勉強すべきかをしっかり理解していると感じさせる回答が目立ちました。

今後の展開について

データ活用の知見を病院にも横展開し、医療提供体制の拡充を目指す

備北保健所における地域医療構想と地域保健医療計画の策定にかかわるデータ分析は、2024 年 3 月末で完了。今後の継続については現在検討中で、所員・職員からは、データ分析についてもっと勉強したい、という前向きな声が上がっているそうです。

一方、宮原氏は、保健所の所員や県職員のさらなるスキル向上を図るだけでなく、保健医療に関わる誰もがデータを活用可能になるような横展開を図っていきたい、と意気込みを語ります。

「医療需要に対して供給が間に合っていないというのは、病院経営の視点からいえば、それだけマーケットがあるということを意味します。病院として医師を 1 人追加雇用し、これまでできなかった手術を行えるようにしたとき、果たしてペイするのか。ビッグデータは、そういう経営判断にも直接的に活用できますし、実際に分析して増益につなげる病院も出てきています。

ただ、多くの病院では、そういうデータ分析のできる人材がまだ育っていません。とすればまさに Tableau の出番ですよね。これまでの取り組みで得た私たちのデータ分析のノウハウを提供し、病院の経営戦略に役立てていただくことで、結果的に医療提供体制の拡充につながればいいと考えています」(宮原氏)

 

※ 本事例は 2024 年 1 月時点の情報です

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