Japan Marine United Corporation

海上運輸の省エネ化と安全性確保に貢献する「Sea- Navi®2.0」


わかりやすい可視化が可能

シート作成や開発の作業が不要

海運業においても重要な課題となっているCO2 排出量の削減。その実現のために「Sea-Navi®」の提供を行っているのが、ジャパン マリンユナイテッド株式会社(以下、JMU)です。同社はユニバーサル造船株式会社と株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッドとの統合により、2013 年1 月に誕生した造船業のリーディングカンパニー。Sea-Navi® は人の判断だけに頼らず、データに基づいて最適な航路を提示することを目指して開発された「船舶のためのナビゲーションシステム」であり、燃料とCO2排出量の大幅な削減を可能にします。その実績が評価され、2015 年度には一般社団法人 日本機械工業連合会が主催する「第36 回優秀省エネルギー機器表彰」において「資源エネルギー庁長官賞」を受賞。2019 年秋にはその第2 弾となる「Sea-Navi® 2.0」の開発が始まっています。

「最初のSea-Navi® では海上のカーナビを目指し、風・波・海流等の悪影響が少なく省エネルギーな運航ルートを探索するウェザールーティングの機能を実現しましたが、Sea-Navi® 2.0 では船舶や航行状況に関するより多くのデータを集めることで、さらなる船舶の安全と環境にやさしい航行の実現を目指しています」。このように説明するのは、JMU 海上物流イノベーション推進部 イノベーション企画グループでグループ長を務める豊田 昌信 氏です。2019 年末からは同社が建造するすべての船に対し、標準でSea-Navi® 2.0 データ収集装置を装備していると語ります。

「ここで重要な課題となったのが、集められた膨大なデータをどう可視化するかでした。これまでも簡単なデータ処理であればExcel、大量のデータを扱う場合にはPython やgnuplot などのツールを使っていましたが、これらのツールの活用には手間がかかる上、プログラミングの知識も必要になります。Sea-Navi® 2.0 で収集したデータを最大限に活用していただくには、船主様に簡単にデータを見ていただくための仕組みを確立しておくべきだと考えました」(豊田氏)。

Tableau の導入・運用環境について

そこで複数のデータ分析プラットフォームを比較検討した結果、最終的に選択されたのがTableauでした。Sea-Navi® 2.0 の開発が本格化する前の2018 年12 月にTableau Server を導入し、ここにSea-Navi® で得られたデータを集約。まずは開発部門内でのテスト利用が進められていきました。その後、Tableau Cloud も導入し、2019 年12 月に顧客へのデモを実施。ここで十分な手応えを確認した上で、Sea-Navi® 2.0 のデータ分析基盤として採用することに決定します。

1 隻の船舶から収集するデータは約800 点。その具体的な内容は船舶のGPS 情報(位置情報)や速力、舵角、主機(エンジン)回転数や発電量などであり、これらがいったん船上のデータ収集装置に集められ、衛星回線を通じてクラウド上のSea-Navi® 2.0 に送信されています。これらのデータをTableau Cloud のデータソースとして使用し、事前に作成しておいたダッシュボードで表示しています。

以前のデータ活用はExcel での集計レベルで終わっていましたが、Tableau なら簡単に可視化まで行えます。その結果データを見て考える習慣が定着しつつあります。これはデータを積極的に活用していこうという動機づけにもつながっています

Tableau 選定の理由について

Sea-Navi® 2.0 のデータ分析基盤としてTableau が採用された理由の1 つは、地図上へのデータ表示を簡単に実現できることだと豊田氏は説明します。

「Sea-Navi® の発想は、地図上に気象・海象データや自船の位置、航跡を表示するところから出発しています。そのため単にデータをグラフ表示するだけではなく、そのデータを船の航跡図にマッピングし、どこで何が起きたのかを可視化することが欠かせませんでした。Tableau ならこのような可視化が簡単に行なえます。地図上で可視化されたデータは船主様にとってもわかりやすい上、自社船舶の状況をトレースする上でも非常に価値のある情報になります」

ダッシュボードの表示内容が自動的に最適化され、配色などのデザインが洗練されていることも評価されています。顧客に見せるダッシュボードは、見た目の美しさも重要だからです。またデータを可視化するまでのプロセスが簡単で、直感的に操作できることも、Tableauの大きな魅力だと豊田氏は指摘。これなら顧客自身がダッシュボードを操作し、自分が見たい情報を自由に見ることができる環境も実現できるはずだと言います。

さらに、テスト段階で無償トライアルが利用できたことや、手厚いサポートがあったことも、採用を後押しする結果となりました。「Tableau 社には数多くの事例紹介やハンズオンも行っていただきました。製品自体も取っ掛かりが容易になっていますが、このようなサポートも最初のハードルを乗り越える上で重要な役割を果たしています」。

Tableau の導入効果について

Sea-Navi® 2.0 のデータ分析基盤にTableau を採用することで、以下のようなメリットが得られています。

わかりやすい可視化が可能

地図上へのデータのマッピングや、直感的に理解しやすい配色によるグラフ化などによって、データが何を意味するのかが理解しやすくなっています。またダッシュボードの操作も簡単に行うことができ、データのフィルタリングや分析軸の変更も容易です。

シート作成や開発の作業が不要

Excel で分析を行うには目的に応じたシートを作成しなければならず、Python やgnuplot で可視化を行う場合にはコマンドを記述したプログラムを作成する必要があります。そのため可視化までに人手と時間がかかるという問題がありました。これに対してTableauでは、ドラッグ&ドロップでダッシュボードを作成できます。その結果、データ可視化に必要な時間や手間が大幅に削減されています。

顧客にとっての自由度も向上

ダッシュボードを顧客自身がカスタマイズすることも容易です。

「大手の造船所では他にもデータを可視化するダッシュボードを提供するところがありますが、そのほとんどは顧客が必要とするデータを表示するために、カスタマイズ作業をメーカーに発注する必要があります。これに対して当社が提供するダッシュボードは、私達がその場でお客様と一緒に表示内容を組み替える事が可能です。将来はお客様自身がダッシュボードを作成できる仕組みも実現していきたいと考えています」。

今後の展開について

「船舶は積載燃料とその消費量が大きく、燃費が10%変わるだけで1 日あたり数トンの差が生じます」と豊田氏。JMU の船舶は世界でも最も燃費性能の良い船との高い評価を得ていますが、Sea-Navi® 2.0 でより多くのデータを収集・分析できるようになれば、さらに燃料消費量を抑えられるようになると語ります。「お客様が保有・運航するJMU 建造船の高い環境性能をデータで体感してもらうだけでなく、今後の当社の開発にも活かすことで、より燃費に優れた船舶の実現につなげることも可能です」。

その一方でSea-Navi® 2.0 は、航行の安全性向上にも大きな寄与を果たすはずだと言います。例えばエンジンの稼働データの収集・分析によってエンジントラブルの未然防止が可能になり、航行中にエンジンが停止して漂流するリスクの回避に役立ちます。また積載貨物やバラストの状況を陸上でモニタリングできれば、折損・転覆などの危険性も予見しやすくなります。

「このようなデータが集まっていけば、海上物流の新たなプラットフォームになっていくはずです。これはコネクテッド化が進みつつある自動車と同様です。集められたデータを多くの船舶と共有できれば、その効果はさらに高まるでしょう。将来はデータ収集装置やダッシュボードを自社建造船に限らず提供し、プラットフォーム化に向けた取り組みを積極的に推進していきたいと考えています」(豊田氏)。