

データドリブンの素早い意思決定でニューノーマル時代に飛び立つ日本航空
コロナ禍に伴う渡航制限・移動自粛の影響により、世界の航空業界は旅客需要の大幅減という厳しい状況に置かれている。そうしたなか日本を代表する航空会社である日本航空は、この危機的状況をどのように乗り切ろうとしているのだろうか。社内外の膨大なフライト関連データを収集・分析し、効率的な運航計画や収益拡大に活用している日本航空のデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みについて、同社執行役員の本田俊介氏と分析プラットフォームのリーダーであるTableau Softwareカントリーマネージャーの佐藤豊氏が意見を交わした。
「ファクト」をベースにスピード感を持って意思決定
佐藤 : 新型コロナウイルス感染症によるパンデミック(世界的大流行)が続き、世界中のあらゆる業種業界のビジネスが大きな影響を受けています。パンデミックを機会に日本企業は現状維持から脱して、働き方やお客さまとの接し方などにおいて変化を遂げています。そのような動きは、グローバル企業だけでなく国内企業でも見られます。
本田 : コロナ禍の影響により、世界の航空業界はまさに未曽有の危機に陥っていると言えるでしょう。そもそも航空業界は典型的な装置産業であり、たとえ航空機が飛ばなくても日々膨大な固定費がかかるので、この状況下で利益を確保するのはきわめて困難です。 私は路線統括本部レベニューマネジメント担当という立場から国際線と国内線、両方においての収入最大化がミッションとなっていますが、国際線の需要はコロナ前に比べて約9割も減少しています。国内線は徐々に需要が戻り始めているものの、まだコロナ前までには回復していません。
佐藤 : コロナ禍の危機を脱するために、業種業界を問わず多くの企業は、現状を把握した上でビジネスをどのように再始動させるべきか、その後どのように成長していくか、という道をたどります。リモートワークなどビジネスのやり方の変化に伴い、これまでは取得できなかったデータや活用していなかったデータを分析し、新たなビジネスの仕掛けをつくろうという取り組みも進みつつあります。
本田 : コロナ禍というかつて経験したことのない状況を乗り切るために、当社がまず留意しているのが、お客さまが安心安全に航空機を利用していただくため感染対策を徹底して実施することです。これは社員に対しても同じです。これらを踏まえながら、いかにして収益を確保するかが課題です。その課題解決の一策として、データ分析・活用の取り組みを進め、さまざまな角度からデータを分析して素早い意思決定に役立てています。例えば従来の国際線は、日本から海外へ行って戻ってくる往復需要が大半を占めていましたが、現在の国際線は海外赴任や留学などでの渡航が目的の片道需要を中心に動いている状況です。また海外から日本を経由して第三国へ渡航する通過需要も増えています。これらはコロナ禍の状況下でどのような需要が発生しているのか、世界のエアラインのデータを収集・分析した結果、見えてきたものです。こうした変化は週単位で起きているので、リアルタイムかつビビッドなデータ分析結果という「ファクト」を短時間で発見し、判断材料にして、スピード感を持った路線や運賃の設定といったアクションにつなげています。
佐藤 : データを分析して結果を得るには、まずはデータの見える化で現状のファクトを把握し、次に何が起きるかという予測を行い、さらに予測に基づいて行動に移すことが重要になります。日本航空ではトップのリーダーシップのもと、ファクトベースの考え方を積極的かつ熱心に推奨し、実践されていて感銘を受けました。
Tableauという 『 コックピット計器 』 を指針にアジャイル経営の実現へ
リポート作成が6時間から30分に短縮し、ほぼリアルタイムでデータ確認が可能に
佐藤 : 貴社は2014年、整備本部に「Tableau」を初めて導入し、航空機のセンサーから取得したデータや運航情報、乗務員からの報告といった情報の収集・分析に活用されてきました。最近では、お客さまのニーズにいち早く応えるためにTableauを活用されていると聞いております。
本田 : 路線統括本部レベニューマネジメント推進部がTableauを本格的に活用し始めたのはおよそ1年前からです。機材や座席などのインベントリー(在庫)・コントロール、航空運賃の値付け、需要動向の把握などを分析して収益を最大化することを目的に、リアルタイムのデータ分析基盤としてTableauを利用しています。具体的には、路線の競争激化により運賃の下落が始まっているとか、座席数を増やしたのに旅客数の変動がないといったファクトを瞬時に把握し、そのファクトから効果的な対策を素早く打つために活用しています。 以前はローデータを国際線・国内線の路線別にExcelシートへ取り込み、すべてのExcelシートを目視で確認して、何かおかしい部分があればその路線の便ごとに確認するといった作業を繰り返していました。この作業は1カ月を上旬・中旬・下旬に分けて行っていたのですが、すべてを確認するまでに約1週間もかかっていました。また数字のどの部分に異常があるかがわかるようになるには、数年間の経験を積んで専門的な知識を身につける必要もありました。それがTableauを使い始めてからは、リアルタイムのデータから誰でも瞬時に異常を発見し、すぐに打つ手を講じることができるようになりました。航空機はコックピットの計器を見てリアルタイムに状況判断しながら操縦しますが、Tableauのデータ分析画面は、まさに私たちにとって「コックピット計器」のような存在です。我々はTableauでビジネスを操縦していると言えるのではないでしょうか。
佐藤 : OODA(Observe‘観察’+Orient‘情勢への適応’+Decide‘意思決定’+Act‘行動’)ループを回して迅速な意思決定を下すため、「コックピット計器」としてTableauを使っていただいているわけですね。コロナ禍では変化をチャンスと捉えて、多くの企業が新たな試みを始めています。日本航空ではTableauがどのようにお役に立っていますでしょうか。
本田 : コロナ禍の現在、最も難しいのが需要予測です。日本航空では別の需要予測システムを運用しており、そのデータを人手でアレンジしながら機材や便数、運賃を決めていました。このような変動を追うために予約状況のリポートを毎日配信しているのですが、Tableauでは毎日30分の更新時間だけでリポートを出力することができます。従来のように担当者が人手で行うと1日6時間以上の作業時間がかかっていましたが、現在はリアルタイムで最新情報をすぐに確認することができます。
業務効率化の実現と収益最大化への貢献を期待
佐藤 : 海外に目を向けても多くの航空会社が顧客満足度、安心安全、財務収益の向上を目的に、Tableauで膨大なデータを分析・活用しています。例えば米国の航空会社では、郵便番号を使って乗客の住所や目的地、利用した空港などのデータを分析し、どの路線の収益力が高いのか、既存路線の強化や新規路線の開拓に利用しています。また機材の整備状況に関する情報を整備部門全体で共有するプラットフォームをTableauで構築し、安心安全に対する意識向上に役立てている事例もあります。
本田 : 航空会社は各社各様にデータ活用の取り組みをしているようですが、どれも興味深い取り組みです。私たちがこれから進めていきたいのは、データ活用による顧客満足度の向上です。日本航空の企業理念には「全社員の物心両面の幸福を追求する」という一文があるのですが、Tableauを使って社員の業務を効率化し、お客さまの声に応えるサービス、施策の企画、アクションに時間をまわし、お客さまの満足の向上につなげていきたいと考えています。まさにTableauの良さのひとつである“インサイトを提供して、人を納得させて、アクションを取らせる”といった点の活用です。さらに直近で計画しているのは、予約状況・マーケット状況の定例分析をTableauへシフトするという取り組みです。現時点では一部の運用にとどまっているものの、完成すればデータを加工・可視化するプロセスにかかる時間が7割削減できると試算しています。この業務効率化の効果も含め、収益最大化に貢献する仕組みとしてTableauにさらなる期待を寄せています。
佐藤 : 人を動かすためにはデータストーリーが必要になると言われています。当社としてもデータをストーリーとして提示することで、より説得力を向上させ、人を動かす源にしていきたいと考えています。ビジネス課題の解決のため、これからも日本航空のデータ活用の取り組みを全面的に支援して参ります。
本田 : コロナ禍後のニューノーマル時代では、データ分析でファクトを知るまでに時間をかけることなく、ファクトをリアルタイムで手に入れ、より多くの時間をアクションに費やすことが求められます。そのためには、素早い意思決定を可能にするデータドリブンかつアジャイルな経営と、それを支える仕組みが必須です。日本航空も、データドリブン文化をもっと育んでいかなければならないと考えています
佐藤 : Tableauは組織全体にわたるデータカルチャーの醸成とデータ活用を今後もお手伝いしていきます。本日はありがとうございました。
※ 日本経済新聞電子版で2020年11月5日~2021年1月31日に掲載された広告特集「Tableauという「コックピット計器」を指針にアジャイル経営の実現 へ」の転載です。