データは文系のキャリア開発にも必須の“世界を読み解く言語”
「学生データ分析AWARD』にて、学生が3年連続で優勝・準優勝
導入の背景
データは“世界を読み解く共通言語”との理解からデータサイエンス教育に注力
外国語運用能力とコミュニケーション能力を伸ばす特色あるカリキュラムで、真の国際人材の育成に取り組む神田外語大学。1987年の開学以来、同大学は、「言葉は世界をつなぐ平和の礎」という建学の理念を大切にしてきました。今日において、この理念における“言葉”という一語は、英語などの自然言語のみを意味するものではなくなっています。その点について、教育イノベーション研究センター 准教授の井芹俊太郎先生は、大学のIR(学内外のデータを収集・分析して改善を支援する活動)を専門とする立場からこう説明します。
「デジタル化の進むグローバル社会で生きていくためには、従来のような自然言語の運用能力に加えて、プログラミング言語などの人工言語の運用能力や、数字・データを使ったコミュニケーション能力の習得が必須となっています。“データは世界を読み解く共通言語である”という認識のもと、本学では近年、データサイエンス教育に力を入れてきました」(井芹先生)
そんな同大学では従来、ExcelやGoogleスプレッドシート、場合によっては専門的な統計ソフトを用いて、統計学や情報リテラシーなどのデータ関連学習を行ってきました。ただ、同大学には、他のいわゆる文系大学と同じく、データサイエンスの学習経験のない、数学や数字に苦手意識を持つ学生が少なくありません。外国語学部3年生の川久保裕生さんはいいます。
「もともと理系だった私でも、いざ授業でデータサイエンスに取り組むとなるとハードルの高さを感じましたし、周囲の友人たちは一切わからないという感じでした」(川久保さん)
そうした学生でもデータサイエンスを楽しく学び、正しく使えるようになるための方策として、同大学は2022年、Tableauの導入に踏み切ったのです。
Tableau の導入・運用環境について
リアルデータを用いた3段階の学習と成果発表で学生のスキルと意欲が向上
井芹先生は、新たなデータサイエンス科目の開講に先立ち、教材としてTableauの授業・Tips動画を自ら制作しました。
「学生は学習の初期段階でもさまざまなステップでつまずきますし、しばらく経つと操作法を忘れてしまうので、繰り返し視聴できる動画教材の活用は必須です。私は初年度にオンデマンド授業5回分の動画を制作しましたが、Web上にはセールスフォース・ジャパン提供の基本操作動画などが多数存在するので、最初はそれだけでも十分だと思います」(井芹先生)
井芹先生が受け持つデータサイエンス関連の科目は、グローバル・リベラルアーツ(GLA)学部開講の対面授業、および外国語学部の必修オンデマンド授業です。両学部共通の初学者を対象とする基礎の学習段階では、Tableauを用いて、「大きさ」「変化」「割合」「散らばり」「関係性」という5つの数値の測り方の違いを意識したデータ可視化のスキルを身につけさせます。その上で、GLA学部の2科目では、発展の学習段階として機械や因果推論の基礎を学ばせたのち、授業内外のコンテストで成果を発表させます。
そのようにアウトプットの機会を重視することと並んで、井芹先生が意識しているのは、温室効果ガスの国別排出量や訪日外客統計など、国際関係や社会問題のリアルデータを利用し、データサイエンスに対する学生の興味を引くことです。GLA学部3年生の中川奈々さんは、もともと数学が苦手で、最初は初めて使うTableauに戸惑ったといいます。しかし、関心のあるデータに触れることで、徐々に楽しさを実感するようになり、最終的には授業内コンテストで優勝するほどのデータ可視化・分析を行えるようになりました。
「私は“食”に強い関心があるので、菓子類の都道府県別の消費量などのデータを利用しました。興味のあるテーマでデータ分析を行い、実践的な学びができたことは、その後の就職活動でも役立っています。私の目指している食品業界では、消費者のニーズを知るための情報収集・分析が非常に大事ですから、Tableauを使ったデータ分析はとても貴重な経験となっています」(中川さん)

データサイエンス科目の授業内でのTableauを用いたディスカッション
私の目指している食品業界では、消費者のニーズを知るための情報収集・分析が非常に大事ですから、Tableauを使ったデータ分析はとても貴重な経験となっています。
Tableau 選定の理由について
教育対象との相性のよさや利便性の高さ、成果発表の機会の豊富さなど、教育上のメリットを実感
きっかけは、他大学におけるTableauを用いたデータサイエンス教育の先進事例を知ったことだった、と井芹先生は振り返ります。
「大正大学や北陸大学では、文系の学生のほぼ全員が、必修科目としてTableauを使ったデータサイエンス教育を受け、大半が一定水準の技能を身につけて合格しているということでした。それなら、似た条件の本学にもフィットするのではないかと考えました」(井芹先生)
井芹先生は、自身でTableauを試用し、データサイエンス教育での利用時に想定される多くのメリットを実感したといいます。まず、教育対象との相性のよさ。Tableauなら、プログラミングや設定など、この分野に不慣れな学生にとって負担となる作業に時間を費やすことなく、 問いをデータで検証するという、この教育の本来の目的である経験を高速で積み重ねることができます。しかも学生や教職員は、アカデミック版を無料で利用できます。
次に、Tableauそのものの利便性の高さです。データの整理・加工が容易であることや、マウス操作だけで探索的な分析が可能であること、データの中身や各種プロセスを視覚的に確認しながら作業しやすいことなど、Tableauはデータサイエンス教育に適した操作性と機能を備えています。さらに、デザイン性が高く、アート感覚で利用できることも、デジタルネイティブ世代の学生にとって親しみやすい要素です。
加えて、アウトプットの機会が豊富であることも大きかった、と井芹先生は話します。
「Tableauを用いたデータ分析コンテストはいくつかあり、先ほど挙げた2大学の学生も好成績を挙げていました。学内に閉じこもらず、そうした学外の場で成果を出すことは、学生にとって大きな自信となり得ます。また、Tableauは企業でも広く利用されているので、キャリア開発にも貢献するだろうと考えました」(井芹先生)
Tableauを使って学外の場で成果を出すことは、学生にとって大きな自信となり得ます。また、Tableauは企業でも広く利用されているので、キャリア開発にも貢献するだろうと考えました。
Tableau の導入効果について
課外活動、卒論、就職など、学生のキャリアにつながるTableau活用事例が出現
「Tableauは、データを列と行(シェルフ)に入れるだけで瞬時に複数のグラフを出し、自動的に色分けまでしてくれます。右も左もわからないところから取り組み始めましたが、思ったより簡単に使えるようになりました。今は、数字を見るだけではわからない事象の傾向をつかみ、要因などについて深く考察できるようになり、洞察力などにおける自分の成長を実感しています」(川久保さん)
Tableauを使ったデータサイエンス教育の効果についてそう語る川久保さん。同様に井芹先生のもとには、受講生からの授業評価として、「さまざまなデータを用いてその違いや関係性を見つける力を身につけることができた」「将来マーケティングなどの際に必ず必要となる力なので、もう少し学ぶ必要があると感じた」など、ポジティブなコメントが寄せられています。
一方、より具体的な成果も現れ始めています。井芹先生の授業でデータ分析・可視化のおもしろさに目覚めた学生の一部は、有志のTableauユーザーによって運営されているコンテスト「学生データ分析AWARD」に出場。これまでに準優勝2回、優勝1回と3年連続で輝かしい成績を挙げています。そのうちの1人は、アメリカの大学への留学時、マーケティングの授業でデータ分析力を発揮して高く評価されたり、課外活動で携わっているフェアトレードビジネスの活性化にデータサイエンスを役立てたりするなど、さまざまな場面でTableauの経験を活かしているそうです。ほかにも、マーケティング関係の卒業論文に必要なデータ分析をTableauで行う学生や、データを扱う仕事に就く学生も出てきています。前出の中川さんもそうした未来を思い描く1人です。
「私は、Tableauとは別のユーザー会ですが、社会人の前でデータ分析ツールを使ってプレゼンテーションをする機会に恵まれました。発表やさまざまな企業の方との意見交換を通じて、自分が将来、データ分析ツールを使って仕事をするイメージが広がり、自信につながっています」(中川さん)
2025年、同大学では、「データサイエンス&AI部」というサークルが有志によって立ち上げられました。説明会には40名近くの学生が集まり、うち半数が正式に入会したそうです。井芹先生はいいます。
「データサイエンスというと、一般には理系の学問と思われがちですが、外国語大学のような文系大学にも、高い関心を持つ学生は潜在的に少なからずいます。実社会では、営業やマーケティングなど、幅広い職種で必要とされる分野だからです。
データサイエンス教育に関する学内調査では、『データ分析そのものを仕事にしたいか』との問いに対し、『あてはまる』との回答が23.3%を占めましたが、授業のプレ・ポスト比較ではまだ11.9%しか増えていません。今後はデータサイエンスを学び続けたいという意欲を持つ学生のさらなる増加を目指し、教育にいっそう力を入れたいと思っています」(井芹先生)
Tableauは、データを列と行(シェルフ)に入れるだけで瞬時に複数のグラフを出し、自動的に色分けまでしてくれます。右も左もわからないところから取り組み始めましたが、思ったより簡単に使えるようになりました。今は、数字を見るだけではわからない事象の傾向をつかみ、要因などについて深く考察できるようになり、洞察力などにおける自分の成長を実感しています。

