KPMG Japan

Tableau Cloudを活用し財務データ分析ツール「FDA」を独自開発


短期開発を実現

柔軟な画面デザインが可能

監査・税務・アドバイザリー業務を展開するKPMG ジャパン。そのメンバーであるあずさ監査法人では、AI や統計、ロボティクスなどの先端テクノロジーの活用による、監査の高度化及びCFO 領域の業務支援を主導しています。そのCFO 領域のデータ分析業務支援として2020 年7 月から提供しているのが「Financial Data Analytics(FDA)」です。

これは豊富な業務提供実績で培った知見を活かし、日本企業のために独自開発した財務データ分析ツール。子会社分析や仕訳分析、経費分析などの各種財務分析を、簡単な操作で行うことができます。

またFDA はKPMG ジャパンで初となるSaaS 型プラットフォームであり、初期導入コストなしの月額料金ですぐに利用できる点も大きな特徴となっています。FDA提供に至った背景について、FDA開発のリーダーを務める高羽 満 氏は、次のように説明します。

「KPMG ジャパンが実施した『CFO サーベイ2019』では、経理人材に今後求められる能力として、回答したCFO の65%が『データ分析・解析能力』を挙げています。さらに、CFO 機能を支えるプロセスにおいて特に重要な課題として、『システム・テクノロジーの活用が足りず効率化が不十分』と回答したCFO は65% に上ります。今後はテクノロジーを活用し、より多くの財務情報を様々な視点・角度から分析・解析する能力を、組織として備えることが必要になると考えられます。その一方で日本CFO 協会発行2019 年10 月号『経理・財務部門のデジタルトランスフォーメーションに関する実態と課題』によれば、日本企業の経理・財務部門は伝統的に人員が少なく、デジタル化の取り組みも遅れており、79% の企業が分析業務のためのリソースが不足していると回答しています。このようなジレンマを解消するために開発されたのがFDA です」。

このFDA を実現するために活用されているのが、Tableau Cloudです。あずさ監査法人は顧客から受け取った経理業務データを分析した上で、その結果をTableau Cloud のダッシュボードとして、顧客に提供しているのです。

以前の分析レポートは数字の羅列が多かったのですが、Tableau を使うようになってからは伝えるべき情報をピンポイントで伝えるため、不要な情報を削ぎ落とすようになりました。その一方で、データを細かく見せることも可能です。この両方を簡単に行えるため、レポート作成の際に「どのように伝えるか」を、以前以上にしっかりと考えられるようになりました

Tableau の導入・運用環境について

FDA 提供に至る取り組みは、すでに6 年前から始まっていました。2014 年7 月に「次世代監査技術研究室」を設置し、仕訳データやERP上のデータを対象とする定型的な分析を開始。業態や業務が会社毎に異なることから、個別にカスタマイズできる分析も用意するという取り組みが進められていたのです。あずさ監査法人ではすでにこの時点からTableau を活用。さらに2019 年7 月にはこの研究室の体制を拡充し、「Digital Innovation 部」を設立しています。

「Digital Innovation 部では、監査のデジタル化を集中的に発展させて社会・クライアントに対しインサイトを提供すべく取り組んでいます。今後更なるニーズに応えるにはアドバイザリー業務としてのサービスの具現化も必要でした。その第一弾がFDA です」(高羽氏)。

FDA の検討が始まったのは2020 年4 月。同年5 月には開発に着手し、ダッシュボード提供の手段としてTableau Cloud が採用されています。

「企業の中には様々なデータが存在し、グローバル展開している企業では海外子会社からもデータが集まります」と語るのは、FDA のビジネス企画を担当する三浦 一成 氏。従来は、これらを部員がそれぞれ分析していたが、分析手法の品質や分析作業の効率性に課題があったと指摘します。「この課題の解消を進めるために採用したのがTableauです。またFDA では単にデータ分析結果を可視化するだけではなく、データにもとづく異常検知などを視覚的にわかりやすく見せることも重視していますが、Tableau ならこのような対応も行いやすいと判断しました」。

FDA はまだリリースされてから間もないこともあり、デモなどを行ないながら顧客開拓を行っている段階にあります。しかしデータの可視化を伴うデータ分析業務へのニーズは極めて高く、すでに数多くの企業からの引き合いが来ていると言います

Tableau 選定の理由について

FDA でTableau が採用された理由は、大きく3 点あります。

第1 は可視化の表現力に優れていることです。「他のBI ツールに比べてチャートなどを美しく表現でき、短時間で感覚的に分析結果を理解できます」と言うのは、三浦氏と共にFDA のビジネス企画を担当する畠山 卓哉 氏です。また使いやすさにも十分満足していると語ります。「もちろんFDA で利用する際には、クライアントにとってのわかりやすさを最重視し、十分な時間をかけて操作動線などを設計しています」

第2 は短期間での導入が可能なことです。Tableau にはTableau Desktop やTableau Server の他に、クラウドで利用できるTableau Cloud が用意されています。これを利用することで、社外の顧客からのアクセスが前提となるサービスも、構築しやすくなると判断されました。

そして第3 がセキュリティです。Tableau 社は、Tableau Cloud の統制と活動に関する徹底的な監査を実施しており、その統制手順に関しては、国際保証業務基準(ISAE)第 3402 号に従って作成された「SOC 2 Type II 報告書」で検証されています。そのため安心して利用できると評価されたのです。

Tableau の導入効果について

FDA の開発におけるTableau Cloud の採用は、以下のようなメリットをもたらしています。

短期開発を実現

クラウド型のTableau Cloud を採用したことで、短期開発が可能になりました。また、あずさ監査法人では常に厳しい内部審査をクリアしなければなりませんが、Tableau はグローバルでの実績があり、セキュリティ面も十分に検証されているため、内部審査も短期間でクリアすることが可能でした。

開発チームの編成が容易

FDA の開発はあずさ監査法人の社内だけで行われましたが、すでに社内でTableau を活用していたこともあり、開発チームの編成が容易でした。また今回の開発プロジェクトで新規にTableau ユーザーになったメンバーもいましたが、彼らの教育も短期間で行うことが可能でした。

柔軟な画面デザインが可能

FDA の開発では、デザイン面の検討を行う専門スタッフも参加しています。彼らからは、他のBI ツールに比べて表現の自由度が高く、同じ分析結果を可視化する場合でもTableau の方が美しく表現できる点が、高く評価されています。

顧客に対して説明しやすい

Tableau はBI ツールとして高い知名度があり、顧客に安心してもらえるというメリットもあると、三浦氏と畠山氏は指摘します。またデモを見てもらった時には「わかりやすい」と言われることが多いと言います。

今後の展開について

現在FDA では、子会社分析、仕訳分析、経費分析の3 つの財務分析ルーツが提供されています。今後はこれらの機能拡充を行う一方で、企業の経理業務のさらなる高度化に貢献するよう、新たな分析ツールの研究・開発も進めていく計画です。具体的には以下のツールを開発し、順次リリースしていく予定です。



• 連結グループ内取引分析

• 売上債権分析

• 仕入債務分析

• 工事収益分析

• プロセスマイニング

「コロナ禍でテレワークが広がったこともあり、今回のFDA 開発は強い危機感と使命感を持ちながら進めさせていただきました」と高羽氏。実際にTableau を活用して開発を行った結果、データ分析結果の可視化の重要性を、改めて認識することになったと語ります。「これからはアフターコロナで業務環境は大きく変化することになるでしょう。このような変化に対し、まずはデータ分析からできることを実現していく。このような想いでこれからも、FDA の開発を推進していきたいと考えています」