新型コロナウィルス検査データの規模拡大を支え、公衆衛生に関するディスカッションを推し進める Abbott Laboratories 社

新型コロナウィルス検査について、Abbott Global の Jeremy Schubert 氏にお話を伺いました。

新型コロナウィルス感染症が蔓延するにつれて、検査やデータの規模を拡大する必要性は高まる一方です。データ企業である Tableau は、その必要性に応える取り組みを行っています。状況に対するデータが多ければ多いほど理解は進み、対処を改善できるためです。そこで、米国で検査データの環境が実際にはどのようになっているか、つまりその複雑さや、この感染症の現状について検査データから何がわかるかを深く知るために、Tableau は現場のエキスパートにお話を伺いました。Jeremy Schubert 氏は、医療機器とヘルスケアで世界最大級の企業である、Abbott Laboratories 社のダイアグノスティクス部門バイスプレジデントです。同社は複数の新型コロナウィルス検査薬を開発、供給しており、社内の検査機器を使ってその診断を行っています。毎月製造、供給している検査薬は数百万個に上ります。検査とその結果データの規模を拡大するため具体的に何が必要か、そして米国の保健衛生と医療を理解する材料にするためにデータの可能性を検討する際、どのようなことを考えるべきかについて、同社は独自のインサイトを持っています。

検査データの価値と限界

Abbott Laboratories 社は米国で新型コロナウィルス検査の極めて重要な基盤に直接貢献していますが、検査から得られるデータにのみ目を向けていると、パンデミックの全体像は得られなくなると Schubert 氏は強く主張します。「新型コロナウィルスは単なる医療上の問題に留まりません。医療や医療機関と互いに影響を与え合っている、公衆衛生上の問題なのです」と、Schubert 氏は語りました。「効果的なパンデミック管理は、病原体の現状を明確かつ広範に知ることから始まるのであり、真の理解のために臨床検査の拡大が必要です」ウイルスがどこにいるか、どのように広がっているかを知るには、大規模な検査が絶対に欠かせません。しかし Schubert 氏によると、新型コロナウィルスのインパクトを本当に理解するには、検査所の検査のみでは不十分です。「健康とは身体的なもののみを指すわけではありませんし、それを取り囲むさまざまな要素があります」。精神的な安定から、住居の状況や健康的な食物の入手などの健康の社会的決定要因まで、あらゆるものがパンデミックの影響を受ける可能性があります。新型コロナウィルスに関するデータが現状をより的確に映し出せるようにするために、診断検査の規模は拡大する必要がある一方で、データや新型コロナウィルスに関するディスカッションはそこで終わらせるべきではありません。Schubert 氏は、新型コロナウィルスのインパクトを示せるデータがほかにもあることを実証するために一例を挙げました。Abbott Laboratories 社が米国中の医療機関のシニアエグゼクティブに行った聞き取り調査で、心不全や脳卒中で救急救命室に運ばれてくる患者数は減っているという声がどこからも聞かれたのです。「もちろん、心不全や脳卒中が起こらなくなったわけではなく、救急救命室に運び込まれなくなっただけなのです」と、Schubert 氏は述べています。「新型コロナウィルスの引き起こした巨大なインパクトが完全にわかっているとは思えません。新型コロナウィルスに感染した人への直接のインパクトだけではなく、受診を見送らねばならず、人生を全うできない事態に直面せざるを得なくなった人たちに対するインパクトもです」。こうしたデータを始めとする大量のデータを収集する取り組みにより、検査や診断のデータから得られる理解を補強することができます。

検査データの収集プロセスの詳細

データを日常的な利用者にとって、診断検査データがさらに必要なのは明らかですが、そのデータを生み出すシステムについては知らないことが多くあります。新型コロナウィルスの検査結果をデータセットにするには何が必要でしょうか? 検査を実施して結果を生成するために、どのようなシステムが使われているのでしょうか? ウイルス検査と、どこかの時点でウイルスにかかっていたかどうかを調べる抗体検査という、2 つの主要な新型コロナウィルス検査では、エンドツーエンドのプロセスが導入されていると Schubert 氏は語ります。さらに、「検査試料を機器で処理するだけではありません。処理前後にさまざまな作業が必要であり、それによって非常に動的な検査が実現されるうえ、医療従事者や検査技師が極めて重要な理由もそこにあります」とも付け加えています。人が検査を受けようと決めてからその結果が地域レポートに現われるまで、プロセスにはさまざま段階があり、そのそれぞれには、管理にデータが欠かせない専用の KPI とロジスティクスがあります。

  1. 患者の募集と参加。 「大したことのない要素だと思われるかもしれませんが、公衆衛生の視点から見ると、人が検査を受ける方法について考えることは重要です。特に、健康の社会的決定要因を考慮することは重要で、交通手段を持たない人がいたらどうなるかなどを検討する必要があります」
  2. 検査の発注。 「私たちがしなければならないことはたくさんあり、採血やスワブによる検体採取だけに留まりません。行われたことを記録するための PC システムで、一定の数の記録を作成する必要があります」と、Schubert 氏は説明しました。
  3. 検体のラベル付け。 正確さこそが、検体の紛失を避けるための鍵です。
  4. 検査所への検体輸送。 「数千の検体が検査所に運び込まれる可能性はいつでもあることを考えると、検体の受領確認に必要なデータとそれを裏付ける追加データをすべて入力しなければなりません」と、Schubert 氏は述べています。
  5. 検体の仕分け。 「すべての検体を 1 つの万能の箱にくぐらせて終わるわけではありません。さまざまな部門があり、さまざまな建物のさまざまなフロアに分散して、さまざまな機器を使うことがあります。処理できる状態にするために、検体は何度も何度も仕分けしなければならないこともあります」
  6. 検体の前処理。 検査所の職員は、処理する機器に送る前に、検体を遠心分離機にかけたり、何らかの処理を施したりしなければならないことがあります。
  7. 機器の常時利用態勢のための取り組み。 「検査機器はいつもただそこにあるわけではありません。常に電源が入ったままになっているノート PC のように、すぐ使えるようになっています」と、Schubert 氏は語りました。「機器を検体の処理がいつでも可能な状態にしておくために、保守もあり、実行しなければならない品質管理がある場合もあります」
  8. 検査所での分析の実施。 検体が機器で処理された後、検査所の技師はその結果を検証して、機器から得られている結果が納得できるものであることを確認する必要があります。「追加の手順として、質問がある場合やさらに情報が必要な場合に医師に問い合わせることも、あるいは検体を再検査することさえあります」と、Schubert 氏は説明しています。
  9. 結果の通知。 患者と医師が検査結果を確実に入手できるようにするために、結果は自動的に通知することも手作業で通知することもあります。
  10. 検体の管理。 検査が終わった後、検査所はその検体を一定の期間保管するかどうかや、検体を廃棄してもいい時期を判断する必要があります。

これは綿密なプロセスで、症状やウイルスとの接触の可能性に対する個人の体験をできる限り正確に、幅広い理解に役立つデータに反映させます。

検査の規模拡大とスピードアップに何が必要かを知る

上記のように Schubert 氏が概略を説明したプロセスは、「高度な自動化とプロセスの流れ」に大幅に頼ってはいますが、「このプロセスには人による作業が大きく関わっています」と Schubert 氏は語ります。そのため、米国で検査やデータ利用の規模を拡大する必要があるといっても、単に検査の実施件数や検査を行うための機器を増やせばいいという話に留まりません。「件数が急増すれば、優れたプロセスであっても追いつかなくなる可能性があります」と、Schubert 氏は述べています。「この急増に対して、現在の日常的な業務に加えて対応する必要がある人たちがそこにいるのです」このパンデミック下の検査とデータ収集では、スピードが極めて重要であることに疑問の余地はありません。特に、新型コロナウィルス感染症の症状を現在呈している人々に対するウイルス検査では、可能な限り早く結果を得たいという要望があります。しかし、さまざまな段階を持つこの処理システムにはボトルネックがある可能性が高いと、Schubert 氏は語りました。とりわけ、スワブ検体を処理する機器は、検査所に占める設置面積の割に処理能力がかなり低いためです。米国内の製造業者は米国食品医薬品局 (FDA) からの支援を得て、ウイルス検査能力の拡大とスピードを求める声への対応に精力的に取り組んでいますが、その過程は完全にスムーズだとは言えません。Schubert 氏によると、血液検体を基にした抗体検査の場合、検査基盤がすでにあちこちで拡大されているため、同様の能力的な制約には直面していないとのことです。

新型コロナウィルスデータの新たな最前線

検査システムの単なる規模拡大の取り組みだけではありません。Schubert 氏によると、検査データは、臨床結果に留まらず公衆衛生上の影響に実際に対処するためにも活用しようという、はるかに広範な取り組みがあります。「当社は今後、患者の治療と数字の報告に利用しているシンプルなシステムから、もっと大規模なものに移行しようとしています」と同氏は語っています。これはつまり検査データを、社会的、環境的、経済的な要素のデータと組み合わせ、ウイルスそのものを超えて個人の健康へのインパクトを理解しようということです。米国内の健康のあらゆる側面に関する既存データについて意見を交わすための出発点として、補強された検査データを使うと、何が実現できるかを Schubert 氏は教えてくれます。「国民が自分の健康に大きな自信を持てるようになり、最終的に国内の数多くのコミュニティを重苦しく包み込んでいる動揺、不安、懸念の大半が取り除かれる可能性があります。普通の生活に短期間で戻れるようになるかもしれません。以前とは違う世界なのかもしれませんが、公衆衛生の観点で見た世界はより良いものになるでしょう」